小説レビュー

『二度とはゆけぬ町の地図/西村賢太』

中卒で家を出て以来、住み処を転々とし、日当仕事で糊口を凌いでいた17歳の北町貫多に一条の光が射した。夢想の日々と決別し、正式に女性とつきあうことになったのだ。人並みの男女交際をなし得るため、労働意欲に火のついた貫多は、月払いの酒屋の仕事に就く。だが、やがて貫多は店主の好意に反し前借り、遅刻、無断欠勤におよび…。夢想と買淫、逆恨みと後悔の青春の日々を描く私小説集。

 

彼女との交際費用を稼ぐために、居酒屋で働き始めるが、計画的にお金を使うことができず(しかも用途は風俗である)前借りする。彼女とsexするために仕事も仮病や無断欠勤をする。どうしようもないやつだ。また「これから自分には心底愛おしく思える可愛い彼女と出会うチャンスがいくらでもあるだろうから、それまではこの小汚い女を一種の”練習台”としていろんなことを試してやろう」という身勝手さには吐き気がする。

しかし、そんなどうしようもない自分のことを、ここまで詳細に書くことができるのはカッコよくも思える。特に女性の下半身をめぐる描写の生々しさは、読んでいて少し顔は引きつってしまう。文章力だけではなくて勇気や覚悟が必要になると思う。