ショートショート『秘め事』

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本来の通学路から外れて寄り道をしている場所があった。サルビアの花が植えられてある公園だ。買い食いなど許されなかった小学生時代の学校帰りには、花の甘みを味わうことさえも大事な楽しみであったのだ。

その日、一人で帰っていた私がいつもの公園へ向かうと知らない女の子がいた。歳は当時の私と同じで十歳くらいだっただろうか。
「この花、知ってる?」
初めて会うはずだったが最初の一言は質問だった。それに対して私は目を見ながら何も言わずに小さく首を振った。本当は吸うと甘いことなど知っているにも関わらず、もっと彼女と話したい、いや、彼女に話して欲しいと思っていたのだ。
「吸ってみて」
サルビアの花が差し出され…それは私の口元まで持って来られた。
その瞬間に私は自分の身体の動かし方などわからなくなった。もしかしたら手で受け取れば良かったのかも知れないと今になって気づく。しかしその頃の私は他の選択肢など思いつかなかったようで、口で直接受け取ったのだ。
「どう?」
「…あまい」
味など全くわからなかったが、彼女の期待する答えを言わなければという義務感があった。
「ね、そうでしょ」

花の甘さを伝えることができて満足したのか、彼女はどこかへ行ってしまった。周りには誰もいなくて、このサルビアの甘さは二人だけの秘密であるような気がした。

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