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ショート小説コンテスト『ホールケーキ〜5歳児の発想〜』

今日は息子の誕生日。
せっかくなので、5歳になった息子と二人でケーキを作ることにした。
丸いスポンジを敷き、息子に生クリームを塗ってもらうと、真っ白な土台が完成した。
私がイチゴとろうそくの配置を考えていると「あれもぼくのケーキみたい!」と息子が大きな声で叫んだ。
その視線の先にはリビングの掛け時計があった。
(ん、どういうことだろう…)
1、2、3、4、5…10、11,12
1から12までの数字をぐるっと見てみるが思いつかない。
白色の盤面に黒色のアラビア数字で書かれたどこにでもあるような時計だ。
今の時間は午後2時、息子が産まれた時間は午前8時なので関係ない、というより5歳の息子は自分の産まれた時間を知らないはずだ。
ケーキと似ているところなんて、白くて形が丸いところぐらいだ。
5歳児の考えなんてそんなもんだ、自分が子供の頃だって同じようなもんだった気がする。

私は丸い時計を見ながら自分の小さい頃を思い出していた。
私の家は4人家族で、両親も少し歳の離れた姉も「自分が食べたいケーキを各々が食べられればそれで良い」という考えの人達だったので、私以外の3人の誕生日には4人ともが違う種類のカットされたケーキを買ってたんだ。
そんな中で私はホールケーキに憧れていて、私の誕生日だけ両親にお願いして、イチゴのホールケーキを買ってもらっていたなあ。
私の家では一年に一度のホールケーキ。
4人が違う種類のケーキを食べるよりも、一つのホールケーキを家族で切り分けて食べるほうが、なんだか仲良しな気分になれると子供ながらに考えていたのだろう。
それにホールケーキであればろうそくをたくさん立てることができた。
小さい頃は1年に1本ずつろうそくが増えていくホールケーキを見ると、自分が少しずつ成長していることを確認できたみたいで何だか嬉しかったんだ。

そっか、もしかしたら息子は数字の「1」がろうそくの形に見えたのかも知れない。
時計には1、10、11、12と「1」が5つ。5本のろうそくが立っているようにも見える。
アラビア数字じゃなくてローマ数字の時計だったら何歳になってたんだろう…
気づくと私は5本のろうそくを一ヶ所に固めて立てていた。
吹きやすいからこれでも良いかな、どうせこの配置は今年だけの特別バージョンなんだから。

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