『納豆定食』

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思いつきの旅行でやってきたこの場所には何があるのだろうか。
自分以外の人が歩いていないような朝早い時間帯を狙って散策してみる。

どこもまだシャッターが降りている中で、すでに開店しているお店があった。
張り紙には「納豆定食はじめました」の文字。
冷やし中華みたいに言っているが、特に季節感のある食べ物でもない。
「そんな大々的に報告することなのか…」と思いながらも、気になって店内に入ってみる。

「いらっしゃいませ」
お洒落なブックカフェだった。
クロワッサンとコーヒーの方が似合いそうな店内で「納豆定食を一つ」と伝える。
すでにお客さんが3人。このお店は何時から開店しているのだろうか。

「お待たせしました」
出されたプレートにはご飯、味噌汁、納豆などとてもシンプルなラインナップ。
なんでもお米はマスターの地元から直接取り寄せているのだとか。
私は納豆に箸を入れる。かつ、かつ、かつ、とリズム良く納豆をかき混ぜる。
静かな店内に私の持つ箸と小鉢のぶつかる音だけが響いているように感じる。
それほど、納豆をかき混ぜる時間は食事中に訪れる数少ない集中した状態ではないかと思う。

「コーヒーはブラック、ミルク、砂糖と一杯で三度楽しめる」と聞いたことがあるが、それは納豆でも同じようなことが言える。
まずは一口目、何もつけずに納豆そのものの味を楽しむ。
そして二口目に醤油、三口目にからしを入れて、味の変化を楽しむ。
これだけで十分楽しめたのだが、加えてここに生卵を投入。
卵が加わったことで、かっ、かっ、かっ、という納豆を混ぜるリズムが少しだけ早くなる。
そしてこれらをご飯の入ったお茶碗の上へ乗せる。
この場所こそ、本来の納豆の定位置だろう。
かっ、かっ、かっ、と今日一番早いリズムで口へ流し込む。
4口目以降は喉越しを楽しんでいるのだ。
私は太った人の名言である「カレーは飲み物」の気持ちが少しだけわかった気がした。

最後に味噌汁を飲み干して手を合わせ「ごちそうさまでした」と心の中でつぶやく。
合わせた手がだんだんと温かくなる。味噌汁の中に入っていた生姜のおかげだろう。
生姜には消臭効果があるので、納豆のにおいも軽減されると嬉しい。

「ありがとうございました」
店員の声を背に受けて、満足した表情で店を出る。
納豆定食、はじめていてくれてありがとう。
店前の通りには少しずつ人が増え始めていた。

――――――――

「タダしいyouに見える」のマスダさんにお願いして、cafe menuのレビューを書く企画に参加させて頂きました。
自分から言っておきながら、遅くなってしまいすみませんでした。
面白かったので、ぜひぜひまたやりたいです。
今度は最初から期限を決めて書き始めますね…

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