周りに座っている仲の良さそうな大人の男女を見ていると、僕と恵美ちゃんもカップルに見られているのだろうと思って嬉しくなったが、隣に座る恵美ちゃんはそれほど楽しそうな表情をしてはいない。
「映画、楽しみだね」
何を話せば良いのかわからずに場繋ぎの言葉を口に出してみる。
「そうだねー」
言葉とは裏腹で恵美ちゃんには共感するつもりがないらしく、つまらなさそうにスマホの画面を見ながら答えていて、僕はさらに不安になってしまう。
勇気を出してクラスで人気の恵美ちゃんをデートに誘った。自分から誘っておきながらまさか本当にデートできるとは、多くのライバルがいるであろう彼女と学校以外で、しかも二人きりで会えるとは思ってもみなかった。
千載一遇のチャンス、どうしても恵美ちゃんに喜んでもらいたかった僕は今までデートなどしたことがなかったけれど必死にデートプランを考えた。
まずは映画だ。これなら簡単に共通の話題を作ることができる。その次は喫茶店に行く。お茶しながら観たばかりの映画で盛り上がる。そしてその後は港の展望台へ夕日を見に行って、良い雰囲気になったところで告白する……完璧だ。
これから数時間続くであろう成功ルートを想像して一人でニヤケている僕に気が付いた恵美ちゃんが話しかけてきた。
「永太くん、女の子と二人で遊びに行ったことないでしょ?」
「えっ、うん、そうだけど…」
可愛い女の子にこんなことを言われると、何でもお見通しみたいで恥ずかしくなってしまう。
「私も永太くんもお互いのこと知らないのに、いきなり映画なの?」
「え、だめだった?」
「まずはお話したかったなあ」
「でもこの後、喫茶店に行くよ?」
「そのときは映画の話ばっかりになっちゃうじゃん」
まさかのデート中にダメ出しがきた。周りの大人カップルがこちらを向きながら小声で何か話している。恥ずかしくなった僕は姿勢を屈めて視界に他のカップルが入らないようにした。
「ちなみに私が好きな映画のジャンルが何なのか、知ってる?」
僕は手に持ったパンフレットに目線を落とす。二人の男女が夕日を背景に仲良く手を繋いで歩いている…恋愛映画だった。
「恵美ちゃんが好きなのって……」
隣に座る彼女の答えを待つ。この数秒間がとても長く感じられた。まるで誰かがこの一瞬一瞬の僕たちを撮影しているようにも思えた。
「この映画が終わってから教えてあげる。ほら、もうすぐはじまるんじゃない?」
不敵な笑みを浮かべてすぐに正面を向いた。おそらく映画を集中して観ることはできないし、その後のあまり盛り上がらない会話も簡単に想像できた。
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