「どうだ、楽しいだろ?」
友人に言われて「ん、まあ」としか答えなかった。
どうやら俺は都会に染まりきっていたようだ。何もかも手に入る環境で、何もかも手に入れようとして、全てを手に入れられなかった。そんなときに彼がキャンプに誘ってきたのだ。
俺は事前に予習をしておいた。キャンプでは「協調性」などが得られるらしい。これ以上まだ何かを得なければならないのかと思うと嫌気がさしていた。
当日は彼と一緒にテントを張り、魚釣りやバーベキューをした。といっても道具は全て彼が用意してくれていたし、俺はただただ彼の指示に従って骨組みを立ててシートを張り、魚を釣り、焼かれた肉を食べていただけだったので協調性など得られはしなかった。
テントを組み立てている間は自宅のマンションを思い出していたし、魚釣りは魚屋を、バーべキューは焼き肉屋を連想させた。どうやら無意識のうちに都会が恋しくなっていたのだろう。
夜になり、焚火の前に二人並んでコーヒーを飲んだ。いつも飲んでいるコーヒーよりも味は薄かったが彼には黙っておいた。
楽しいだろと聞かれて「ん、まあ」としか答えなかったが彼は嬉しそうだった。
彼がなぜ二人でキャンプをしようと思ったのか疑問だった。もしもキャンプが協調性を得るための機会であれば、参加する人間が多いほど協調性が鍛えられるのではないだろうか。それにこの焚火の前でも会話の負担量も軽減されるはずだ。
俺は仕方なく自分から話を切り出し、魚屋や焼き肉屋を連想していたことを伝える。それを聞いた彼は大声で笑った。辺りが静かだったため彼の笑い声が遠くまで響いていた。
「お前を連れて来られて良かったよ」
そう言って彼は空を見上げた。何かあるのか気になって俺も一緒になって見上げてみると、空には多くの星がいた。
おそらく俺は都会で色々なものを詰め込み過ぎていたのだろう。今回のキャンプでは「空にはたくさんの星がいる」ということを知られただけで十分だった。
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