「財布、携帯…と、そろそろいかなきゃ」
リビングに飾ってあるひまわり畑の写真をもう一度見てから家を出る。一緒に住む彼は、今頃リハーサル中だろうか。
私の彼は役者として活躍している。テレビに出ることはほとんどないが、お芝居が好きな人達の間ではかなり有名な人間だ。そんな人とも付き合っていることが嬉しくもあり、悔しくもあった。
劇場へ向かう途中に花屋さんに立ち寄った。
花は色鮮やかで美しいが、その命は短い。その儚さが花の美しさを引き立たせているのではないかと思う。その花が一つの季節にしか咲かないと決まっているのなら、儚さは一層強くなるだろう。
終演後、私はひまわりの花束を持って彼の楽屋へ向かう。
「お疲れさま。はい、これ」
「ありがとう。なんでひまわりなの?」
「ひまわりには“向日性”っていう光の方を向く修正があるじゃない。それがスポットライトを浴びるあなたにそっくりだと思ったの」
「あはは、そういうことか。嬉しいなあ」
数十分前まで暴利を貪る恐ろしい領主だったとは思えないような温かい笑顔を見せてくれる。
スポットライトの話も本当だけど、私が送ったひまわりには他の意味も込まれていた。
雲の上の人に対する“あこがれ”だ。私も女優を目指していたけど、同じ劇団に入ってきた彼の演技を見て、才能の違いにショックを受けた。しかし今では彼を陰から支えられたらそれで良いと思っている。
「実はね…」
「ん?」
「僕からもプレゼントがあるんだ」
そういうと彼も同じようにひまわりの花束を、それに加えて指輪を手渡してくれた。
「この公演が終わったら伝えようと考えていたんだ。時間が限られている人生だとわかっているから、だからこそこれからも君と一緒にいたいと思えたんだ。結婚してください」
「こういうときって、バラの花束なんじゃないの?」
少し呆れた風に話してみるが、彼はそれほど気にしていない。
「だってひまわり畑でのデートから僕たち二人は始まったんから」
少しだけ照れくさそうに話している。
「ふふっ…ありがとう、よろしくお願いします」
私は丁寧にお辞儀して見せていたけど、それは自分が嬉しくて泣きそうになっているのを隠すためでもあった。
そうか、私だって輝くの方ばかり向いて、ひまわりのような人間だったのかも知れないな。
彼はまっすぐに私の方を向いているけど、私は恥ずかしくて前を向けない。
ひまわりの花言葉は『私はあなただけを見つめる』だってこと知ってたのかな?
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